声劇用台本「地獄の沙汰も名前次第」
・声劇用台本
・約10分
・登場人物3人
・1人でやれないこともない
本文
登場人物
・閻魔様
・鬼
・語り部
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語り部「こんな話がございます。なんでも人が亡くなって、閻魔様の御前に引っ立てられる段になりますと、閻魔様が、亡くなった人を極楽に行かせるか地獄へ落とすかお決めになる前に、その人の名前がなんと申すのか鬼に確認するんだそうでございます。そこで、例えば、その人が『トマト』だとか、『ナス』だとかいう名前だったりしたらば、『お前は野菜をワシの前に連れてきたのか!現世に返してこい!』なんていう風に、お言いつけになって、トマトさん、ナスさんは、そのまま生き返ってしまうんだそうな。今から皆さまにお付き合い頂くお話も、そんなお話でございます」
閻魔様「最近、めっきりワシのところに来る人間が少なくなったな」
鬼「はぁ。おかしゅうございますね」
閻魔様「おい、お前!まさかサボってるんではなかろうな!」
鬼「まま、まさか!滅相もない!地獄の鬼も青ざめるほどキリキリ働いております!はい」
閻魔様「うむむむ。おかしいな。こうも、人間が長生きするはずはないんだが……。おい!誰ぞ亡くなった人間がいないか、見て参れ!」
鬼「ははーっ!ただいま!」
閻魔様「……まったく。最近の鬼共はゆとりがすぎる。やれ、有給を寄越せだの、残業代を支払えだの、こないだは奪衣婆が定年退職させてくれと言ってきおったからな」
鬼「閻魔大王様!連れて参りました」
閻魔様「おぉ!よくやったぞ、鬼よ。お前は今度、評定を上げておいてやろう」
鬼「ははーっ!ありがたき幸せ!」
閻魔様「して、今連れてきた者の名はなんと申すのだ」
鬼「はは。田中ぴ【ピー】ちゅうと申すようです」
閻魔様「なに?」
鬼「ですから、田中ぴか【ピー】うと申すようです」
閻魔様「うぅむ、規制音のせいで聞き取りづらいな。これ、ちこう寄って耳打ちせい」
鬼「はは。それでは失礼をば。〜ゴニョゴニョ」
閻魔様「ふむふむ。む?……馬鹿者が!お前は何をやっておるか!」
鬼「なっ、なな、何がでございましょう!」
閻魔様「お前が連れてきたのは、国民的人気を誇る、某ボールから姿を現す黄色いネズミであろうが!連れてきてしまったら何とは言わんがアニメが1本終わってしまうであろう!」
鬼「し、しかし見たところ冴えないおっさ……」
閻魔様「いいから戻して参れ!ト【ピー】ワの森にだぞ!」
鬼「は、ははーっ!」
閻魔様「全く……、何を考えておるのやら。……んん?そういえば、何日か前にもヤツめ、黄色ネズミを連れて来おったな。……評定はやはり下げておくか」
鬼「閻魔大王様!連れて参りました!」
閻魔様「おぉ。今度こそちゃんと人間であろうな!」
鬼「ははっ!間違いなく!ちゃんと中年のおっさんでございます」
閻魔様「おぉ、でかしたでかした。して、そやつの名前はなんと申す」
鬼「はっ。鈴木幻の銀次と言うようです」
閻魔様「……は?」
鬼「えっ?いえ、鈴木幻の銀次と……」
閻魔様「な、え?鈴木?」
鬼「幻の銀次でございます」
閻魔様「いや、お前。『の』は助詞だろう?正確には準体助詞だ。名前に『の』が含まれるわけ無いであろうが」
鬼「いや、本当に戸籍にも幻の銀次で登録されていまして……」
閻魔様「デタラメを抜かすな!大方、手頃な人間がつかまらなくて、お前が飼ってるペットか何か連れてきたんであろうが!なんだ幻の銀次って!銀次はギリ分かるが幻のって何だ!」
鬼「私が聞きたいくらいでございます!」
閻魔様「とにかく戻してこい!そのついでに人間を探して参れ!言っておくがちゃんと人間を連れてくるまでワシの前に戻ってくることは許さんからな!」
鬼「そ、そんな殺生な!」
閻魔様「とっとと行って参れぁ!」
鬼「ひ、ひどい!人権無視だ!」
閻魔様「鬼に人権など保証されておらぬわ!……行ったか。まったく、ワシに嘘が通じんことぐらい分かるだろうに。舌引っこ抜いて地獄に落としてやろうか。んっとに。ダメだな。覇牢輪悪(はろうわあく)にまた求人出すか……」
鬼「連れて参りました!連れて参りましたよ、今度こそ!」
閻魔様「随分早かったが大丈夫であろうな!」
鬼「今度こそはバッチリでございます!」
閻魔様「では、その者の名を聞かせるがよい!」
鬼「ははっ!佐藤かずお(87)でございます!」
閻魔様「今どきそんな普通の名前をした者がおるか!もう良いわ!お前はクビだ!」
鬼「そ、そんなぁ〜!閻魔様の、鬼ーーっ!!」
語り部「とまあ、あの世でも苦労は絶えないようで、この世にいる間は少しでも、楽をして生きていきたいものでございますね。え?私の名前でございますか?私は高橋獅子王(らいおんきんぐ)と申します。えー、おあとがよろしいようで」
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