あかしばたらき

・登場人物4人

・約20分〜30分

・性別改変、口調の軽い改変可

・アレンジ、アドリブは、内容が変わりすぎない程度に



本文



登場人物



・ひさげ(男性)

妖怪のために提灯をつくる店、燈(あかし)を営んでいる店主。ミステリアスだが、物腰柔らかで穏やかな人物。


・いるま(女性 )

人間の20代の女性。

真っ直ぐで思いやりがあるが、真っ直ぐすぎて余計な言動が目立ったりするのが玉に瑕。


・えにし(男性)

燈(あかし)に提灯の材料を卸しているカワウソの妖怪。ぬぼーっとした性格。


・せつ(女性)

オマヨイ様になってしまった雪女。

斜に構えていて冷めた性格だが、悪い人では無い。


________________________



ひさげ「どうぞ」


SE お茶を置く音


いるま「あ、ありがとうございます」


SE お茶を飲む音


ひさげ「落ち着かれましたか?」


いるま「はい。……ごめんなさい。急に入って来てしまって。その、……ご飯屋さんだと思ったんです」


ひさげ「いいんですよ。ゆっくりなさって下さい……道に迷われたんですか?」


いるま「……はい。ちょっと、色々あって途方に暮れてたら……この辺りには来たことないですし」


ひさげ「そうですか。……失礼かもしれませんが、格好を見るに就活か何かでこちらに?」


いるま「はい。……でも、履歴書すら受け取って貰えなくて……。なんかもう」



SE お茶を飲む音



ひさげ「そうですか。大変でしたね」


いるま「本当にすみません。こんな時間に。お仕事もありますよね」


ひさげ「いえ、丁度お客様もいらっしゃってませんし、大丈夫ですよ」


いるま「そういえば、何のお店なんですか?表の看板には、燈(とう)?って、書いてありましたけど」


ひさげ「あぁ、あれは燈(あかし)と読むんです。……そうですね、簡単に言えば、提灯を作るお店です」


いるま「へぇー」



SE お茶を飲む音



ひさげ「それはそうと、申し遅れました。私、店主の提(ひさげ)と申します」


いるま「あっ、こちらこそ。入間(いるま)って言いま……」



SE 腹の虫



ひさげ「おや」


いるま「あ……、いやぁ、お恥ずかしい……朝から何も食べてなくて……」


ひさげ「こちらこそ、気が利かずに。大したものはありませんが、夕飯の残りでよければ」


いるま「いえ、そんな!お茶まで頂いてますから!それに、直ぐにおいとま……」



SE 腹の虫



いるま「あぅ……」


ひさげ「ふふ……。このあたりはタクシーもつかまりませんし、この時間では電車ももうありません。お嫌でなければ、客間がありますので、泊まっていかれてはいかがですか?」


いるま「うぅ……、でも、そこまで甘える訳には……」


ひさげ「そうですね。……では、今晩、仕事を手伝って頂く、というのでどうでしょう。無理強いはしませんが……」


いるま「う〜〜ん……。じゃあ、ひさげさんがそれで良ければ……いいですか?」


ひさげ「ええ。もちろん。では、何か食べられる物を温めて来ますので、くつろいでいて下さい」


いるま「すみません、ありがとうございます」



SE 畳の上を歩く足音

SE 時計の音



いるま(よく考えたら、私が手伝える仕事なのかな……。提灯とか作るどころか触ったことすらないし……)



SE 時計の音フェードアウト


暗転 画面テキスト【10分後】


SE 時計の音フェードイン



いるま(お茶も飲み終わっちゃった……。何やってんだろ私……、就活は失敗するし、ここの店主さんには迷惑かけるし……。消えてなくなりたい……)


ひさげ「お待ちどおさまです」


いるま「あ、っあの!」


ひさげ「はい?」


いるま「やっぱり……タコス?!」


ひさげ「ええ。お嫌いですか?」


いるま「いや、嫌いな訳じゃ……まさかタコスが出てくるとは思わなかっただけで……」


ひさげ「あぁ、確かに似つかわしくないですよね。よければコーラもどうぞ」



SE プシュッ、トクトクトク



いるま(タコスにコーラ……。てっきりカレイの煮付けとか筑前煮とか、そういうのが出てくると思ってた……)


ひさげ「……もしかして、和食の方が良かったですか?うーん、さっき見た感じほうとうぐらいしか無かったんですけど」


いるま(ほうとう?!また、イメージしづらいものを……)


ひさげ「ほうとうで良ければ……」


いるま「あ、いえいえ!ちょっとびっくりしただけで、タコスが嫌な訳じゃないんです!……い、いただきます!」



いるま、しばらく食べる



いるま「……おいしい。ここのとこ、ずっとコンビニ弁当とかで……」


ひさげ「そうですか。よかったですね」


いるま「はい……。あ、そういえば、今日働かせて頂くっていう話なんですが」


ひさげ「あぁ。今、お話して大丈夫ですか?」


いるま「あ、食べながらっていうのも行儀悪いですね」


ひさげ「いえいえ、私は一向に構いませんよ。では、食べながらでいいので、説明しますね」


いるま「お願いします」


ひさげ「とは言っても、提灯づくりを手伝って頂く訳ではなくて、接客をお任せしようと思ってるんです」


いるま「あぁ、そっか。そうですよね」


ひさげ「えぇ。このお店では、お客様がお見えになってから作り始めるのですが、なにぶん、時間が掛かるもので。いるまさんには、お客様の提灯が出来上がるまでの間、話し相手になって頂きたいんです」


いるま「はぁ、なるほど」


ひさげ「ただ……。当店の客層は……、変わっているので。最初驚かれるかな、とは思うんですが」


いるま「大丈夫です。一宿一飯のご恩ですから!頑張ります」


ひさげ「そうですか。……ふふ。期待しておりますね」



OP

タイトルイン



いるま「すいません、何から何まで。制服までお借りしちゃって……」


ひさげ「いえいえ。よくお似合いですよ。お客様がおいでになるまでは自由になさっていてください」


いるま「はい。……それにしても凄いですね。この提灯たち」


ひさげ「あぁ……。それは、残念ながら売れ残ってしまった物で。……もう二度と売れない提灯なんですよ」


いるま「はぁ……。何で、なんですか?」


ひさげ「……それを必要とするオマヨイ様はもう、いらっしゃいませんから」


いるま「オマヨイ様?」


ひさげ「このお店の提灯は、全て、オマヨイ様ひとりひとりに合わせた物をお作りしています。でないと、辿り着けませんからね」


いるま「……?……はあ」


ひさげ「……いるまさん。このお店は」



SE 戸を開ける音



えにし「ごめんなせえ」


いるま「あ、いらっしゃ……、え?!」


ひさげ「あぁ、ご苦労さまです」


いるま「な……え……?」


えにし「お?旦那、人を雇ったんですかい?珍しい」


いるま「あ、えっと」


えにし「ん?あぁ、あっしは客じゃねえんです。ここに提灯の材料を卸に来てるだけで。お構いなく」


いるま「は、はい」


えにし「ほいじゃ、上がらせてもらいまさぁ」


ひさげ「いつもの所にお願いします」


えにし「あいよー」



SE 足音



いるま「えっ、と……」


ひさげ「すみません。このことは事前に説明しておくべきだとは思ったのですが、直に見るまでは信じて頂けないかと思ったので。……見ての通り、このお店に来られるお客様は、皆さま、いわゆる人間ではありません。いるまさんたち人間が、もっぱら妖(あやかし)だとか、妖怪と呼ぶ方々なのです」


いるま「な、なるほど」


ひさげ「騙すような形になってしまい、申し訳ありません」


いるま「いえいえ、そんな!確かに、ちょっとビックリはしましたけど、でも客層が変わってるっておっしゃってましたし。こういうことだったんですね。……あのー、ところでさっきのオマヨイ様っていうのは」


ひさげ「……お聞きに、なりますか?」


いるま「い、一宿一飯の恩を返すためにも、ちゃんと接客したいですから」


ひさげ「……そうですか。では」



場面転換

語り(絵巻みたいな感じがいい)

BGMイン



ひさげ「妖は寿命が尽きると、人間でいうあの世、『カクリヨ』という場所に行く必要があります」


いるま「えっ!妖怪って死ぬんですか?!」


ひさげ「えぇ……。自分の事を覚えていてくれる、知っていてくれる人間や動物、妖が1人も居なくなってしまうと、妖は死んでしまいます」


いるま「そうなんですね」


ひさげ「そう。そして、カクリヨに向かうには、自身の『忌み名』、本当の名前を知っている必要があるのですが、大抵の妖は忌み名を忘れてしまっているか、そもそも知らなかったりするので、死後、探し回る羽目になります。この、自身の忌み名を探し回る妖のことを、オマヨイ様、と呼ぶのです」


いるま「なるほど。……本当の名前っていうのは、河童とか、天狗とか、そういうのじゃなくてってことですか?」


ひさげ「そうですね。河童や天狗というのは、種族を表す呼び名ですから。いるまさんも、“人間”の“いるま”さんでしょう?つまり、河童の誰それ、だとか、天狗のなにがし、という風に個人個人が名前を持っているんですよ。ただ、忌み名というのは、それともまた違います」


いるま「そうなんですか?」


ひさげ「忌み名、というのは、他人に絶対に教えてはいけない、その人そのものを表す大事な名前です。人に知られれば、最悪命の危険もあります。だから、ふとした拍子にポロッと言ってしまわないように、そもそも、自分も自分の忌み名を知らない、というケースが殆ど。ですから、皆さん死後に探すことになるのです。いるまさんにも、忌み名があるはずですよ?」


いるま「えっ、じゃあ。私も死んだあとオマヨイ様に?」


ひさげ「いえいえ。人間は、親御さんやご先祖さまが忌み名を知っていて、教えてくれることが殆どですから。人間のオマヨイ様は滅多に見かけません。ただ、妖は、一人でぽっと生まれますので」


いるま「そうなんですね……」


ひさげ「そうです。……話を戻しますが、カクリヨに行くための忌み名を探すためには、その妖に合った提灯が必要なんです」


いるま「あ、それじゃ、ここでその提灯を作ってるってことなんですね」


ひさげ「そう。ただの提灯じゃないんですよ」



場面転換

店内



いるま「へぇー……、とっても大切な……。あれ?でもそれじゃあ、売れ残ってしまった提灯って……」


ひさげ「……。自分の死を認めたくない、やり残したことがある、そんな妖は、提灯を受け取ることを拒否して、こちらの世界に留まってしまうんです」


いるま「そっか……。そうですよね。悲しいですけど、仕方ないことですよね。……でも、それって、カクリヨに行けなかったらどうなっちゃうんですか?」


ひさげ「それは……」


えにし「アラタマになっちまうんだよ」


いるま「あらたま?」


えにし「人に悪さをする妖のこってぇ。アラタマになっちまったら、もうカクリヨにはいけねぇから、退治されるか、どっかで祀られるかだな」


いるま「祀られる?」


えにし「あぁー、最近の子はそういうの知らねぇよなあ。ほら、神社ってあるだろ?あれって、全部が全部いい神さんじゃねえんだよ。ホントに偉くて奉られてる神さんと、悪いことばっかすっから、大人しくしてもらうために祀られる神さんと2パターンいんだ。んで、悪いことばっかする方の神さんは、大体、アラタマになっちまった元妖だな」


ひさげ「そう。簡単に言えば、悪い神様が荒魂(あらたま)、良い神様が和魂(にぎたま)ですね。たまに、元妖のニギタマもいますよ」


いるま「はぇー……」


えにし「まぁ、ホントはもっと複雑な話なんだけどな。ところで旦那、終わりやしたぜ」


ひさげ「あぁ、ありがとうございます。お茶でも飲んでいかれますか?」


えにし「いやぁ、このあとも仕事が詰まってるんで。またの機会にしまさぁ。そいじゃ」


いるま「あ、えっと、ありがとうございます」


えにし「おう。気張ってけよ、人間のねーちゃん」



SE 戸の音



ひさげ「とまぁ、このお店の説明はそんなところです。働けそうですか?」


いるま「え、えぇ……。でも……」


ひさげ「……まぁ、嫌ですよね」


いるま「いえ!そんな!そういうことじゃなくて……。ただ、私にそんな大役が務まるのかなって。……私は、就活100社受けても1社も内定もらえないし、履歴書すら受け取ってもらえないし……。そんな大切な役目が務まる気がしないというか……」


ひさげ「就活なんて、ほぼ運ですよ。相手の気分次第ですから。……それに、オマヨイ様が忌み名を探すお手伝いをして欲しいという訳ではないんです。それは私の役目ですから。いるまさんにはただ、お話相手になって頂ければそれでいいんです」


いるま「そう、ですか……。あの、私でよければ……」


ひさげ「ありがとうございます。……渡りに船ですよ。何せ、ほら。求人を出すわけにもいきませんし、妖を雇うとなると大変ですから」


いるま「そ、そうですよね。あはは……」


ひさげ「本当に……、妖にはお金なんて必要のないものですからね」


いるま「あ、そうなんですか?」


ひさげ「えぇ、なので」



SE 戸の音



ひさげ「……」


いるま「ぁ、い、いらっしゃいませ」


せつ「……」


ひさげ「……いるまさん。私は、提灯を作り始めなければなりませんから、お任せしましたよ」


いるま「えっ!じゃあオマヨイ様……」


ひさげ「ごゆるりと……」



SE 足音



せつ「……」


いるま「あ、あの……」


せつ「……」


いるま「ええっ……と」


せつ「……なに?」


いるま「え?……いや、そう……。い、いい天気ですよねー……なんて……」


せつ「……」


いるま「あ、えっと、私、いるまって言います。今日からここで働かせて頂いてます。よろしくお願い、します」


せつ「……私は、せつ」


いるま「せつさん!いいお名前ですね!」


せつ「……」


いるま「あー……」


せつ「あなた、人間?」


いるま「あぁ、はい。人間です」


せつ「そう。……人間を見るのは本当に久しぶり」


いるま「そうなんですか?」


せつ「……えぇ」


いるま「あ、よ、良かったら、こっちに座って話しませんか。その……、良かったらですけど」


せつ「……」



SE 足音、座る音



いるま「……で、人間が久しぶり、なんですか?」


せつ「えぇ。……見てわかるでしょ。私、雪女だから」


いるま「あぁー、雪山、とかに住んでるんですかね?」


せつ「そうよ」


いるま「確かに、雪山にあんまり人間は行きませんもんね。私も、スキーで1回行ったぐらいしか」


せつ「そうね……。スキー場なんて、山の一部でしかないから」


いるま「……でも、なんか意外ですね」


せつ「……?なにが?」


いるま「雪女なんて、めちゃめちゃ有名なのに、忘れられるなんてことあるんですね」


せつ「あなたね……。ちょっとデリカシー無さすぎるんじゃない?」


いるま「あっ!すみません!ごめんなさい!本当に……、何でこんなこと言っちゃったのか……、つい……」


せつ「……いいのよ。変に気をつかってもらうよりよっぽどいい」


いるま「……すみません」


せつ「そうね。みんな、雪女自体は知ってても、私のこと、“雪女のせつ”のことは知らないでしょ?そういうことよ」


いるま「あぁ、個人を知る人がいないと……っていうことなんですね」


せつ「そう。……あなた、なーんにも知らないのね。人間らしいわ」


いるま「ごめんなさい……」


せつ「いいのよ。……あの人もそうだったし」


いるま「あの人?」


せつ「……まぁ、元カレよ。人間のね」


いるま「元カレ……」


せつ「私のこと、何にも知らないくせに、私が雪女だって分かった途端……」


いるま「えっ?!まさか別れちゃったんですか?!こんなに美人なのに?!!もったいな!!」


せつ「…………。デリカシーがないというか、大物というか……」


いるま「あっ、ごめんなさい。……でも酷すぎません?!別れて正解ですよそんな男!」


せつ「別れたんじゃなくて捨てられたんだけどね。正直、傷ついたわ。あの人のこと信頼して、打ち明けたのにね」


いるま「うーわ、マジでさいってー!」


せつ「……あのね、確かにそうかもしれないけど、一応好きだった相手だから、あんまりボロクソに言わないでもらえる?」


いるま「あっ!!……すみません」


せつ「ふっ……。……あなた、恋愛の経験ってある?」


いるま「あぁ〜、まあ、学生の時に2回ぐらい。2回とも片思いで、そういう関係にはなれずじまいでしたけど」


せつ「そう……。羨ましい。綺麗な思い出のままで終わらせるのが1番よね。恋愛なんて」


いるま「……お相手の人、どんな方だったんですか?」


せつ「……うーん、そうねぇ。人畜無害でお人好しだけど、気の弱い男だったわね」


いるま「あぁ〜……」


せつ「今からもう、300年は前かしら。彼、猟師だったんだけどね?吹雪で迷って、行き倒れてたのよ」


いるま「え?……じゃあ、そこを助けて……ってことですか?」


せつ「そうよ?大変だったわ。色々」


いるま「うわぁ〜、ロマンチックなお話!凄い馴れ初めじゃないですか」


せつ「まあ、ドラマチックではあったわね」


いるま「え?!それなのに、その人、せつさんのこと捨てたんですか?!」


せつ「そうね」


いるま「ひどい!こんな美人がしかも自分のこと助けてくれた相手なのに!!サイッテー!」


せつ「いや、だから。あんまり悪く言わないでって」


いるま「ご、ごめんなさい。つい。……でも、たかだか相手が妖怪だったってだけで捨てるまでいきます?ふつー」


せつ「当時はね。人間の価値観って違ったのよ。妖怪は邪悪。絶対に近づいちゃダメ。じゃなきゃ、自分の親兄弟まで酷い目にあわされる、ってね」


いるま「……でも、助けてくれた相手なのに」


せつ「……彼の気持ちも分かるのよ。確かに得体の知れない相手は怖いし、ましてや自分と違って人間じゃない相手だから。人間って、自分とは違う相手が怖いんでしょ?私たち妖も、大抵そうだし。人のこと言えないわ」


いるま「まあ、確かにそういう人もいます。いじめとかもするし……。でも、最近はそういうこともなくなってきてて、自分と違う相手も受け入れよう、みたいな」


せつ「ふーん」


いるま「だから!せつさんも今度はいい相手が見つかりますって!こんなに美人なんだし!」


せつ「……うふっ。ありがとう。私、死んでるけどね」


いるま「あっ……」


せつ「あはは。いいのよ。そんな顔しないで。嬉しいわ。素直に」


いるま「もう……、ほんっとうにごめんなさい。私、こういうところがホントにダメなところで……。空気読めないって言うか、余計なことばっか言うっていうか……。だから、就活も落ちるんですよね……」


せつ「……なんだかよく分からないけど、相手によっては、あなたのそういうところは美点にもなりうるのよ。そういうあけすけなところが好きだっていう人は必ずいるわ。特に妖なんて、みんなそういう相手の方が好きだったりするのよ?」


いるま「そうなんですか……?」


せつ「ええ。みんな、何百年も生きてて、気難しいのばっかりだからね。気を使われると逆にへそを曲げる、なんて奴の方が多いわ」


いるま「……えへへ。じゃあ、私、この仕事向いてるかもしれないですね」


せつ「それは……どうかしら……」


いるま「えっ、そ、そんな……、冗談、ですよね!?いやだなぁ!あははは!あははははは!」



溶暗

明滅フェード(時間経過演出)



せつ「でね?酷いのよ?そいつ結局、他の女の子娶ったんだから」


いるま「うわぁー」


せつ「正直おかちめんこだったわ。絶対私の方が美人」


いるま「なんとなく腹立ちますよねーそれ。私も、好きだった相手が別の女の子と付き合い始めた時……」



溶暗

明滅フェード(時間経過演出)



いるま「で、酷いんですよ?!出身大学言ったら鼻ほじりながら鼻で笑うんですよそいつ!ハゲのくせに!」


せつ「あぁー。いるわよね。身分とか肩書きだけで相手を見下すやつ」


いるま「そうなんですよ!ハーバード大とか出てからやれってんですよそういうことは!」



溶暗

明滅フェード(時間経過演出)



いるま「それで……」



SE 時計の定刻チャイム



いるま「あ、もうこんな時間。ごめんなさい。お茶も出さずにずーっと……」


せつ「いいのよ。楽しかったわ。それに、熱いの苦手だから」


いるま「あ、じゃあ、アイスティーとか……」


せつ「……ううん。ありがとう。嬉しいけど、もう行かなきゃ」


いるま「あ……」


ひさげ「お待たせ致しました」



スチル 提灯



いるま「……わぁ、きれい」


せつ「……ほんとに」



スチルから店内観へ



せつ「ありがとうございます。お礼は必ず」


ひさげ「いえ。良き旅路となりますよう」


せつ「じゃあね。ありがとう」


いるま「あ……」



SE 足音



いるま「あの!せつさん!」


せつ「……?なに?」


いるま「あの、あの……、こんなこと言っていいか分かんないんですけど、せつさんって最近亡くなられたんですよね?」


せつ「……そうよ」


いるま「じゃあ、じゃあ、きっと、せつさんを捨てたっていう猟師の人、孫の代まで語り継いでたんですよ!せつさんのこと!」


せつ「……!」


いるま「忘れられなかったんですよ、きっと!で、今回はたまたま、たまたま、孫の人が自分の子供に話すの忘れちゃっただけで……!」


せつ「……そうね。……そうだと、いいわね」


いるま「絶対そうです!」


せつ「……ありがとう。いるまちゃん」



SE 戸の音



いるま「……あ。……せつ、さん」


ひさげ「……」


いるま「あ、ひさげさん……。あの、ごめんなさい。……私、余計なこと」


ひさげ「いるまさん」


いるま「……はい」


ひさげ「私は、長い事このお店をやっていますが、今日ほど、お客様が満足そうに提灯を持ってお店を後にされた日はありません」


いるま「……え?」


ひさげ「いるまさん。ありがとうございます。……とっても、助かりました」


いるま「……!いえ!良かった……!……良かったです!」


ひさげ「さて、もうこんな時間ですね。いるまさんの寝床の用意をしなければ」


いるま「あっ!……ありがとうございます。えへへ」


ひさげ「いえ……。……時に、いるまさん」


いるま「はい?」


ひさげ「良ければ……、もし、いるまさんさえ良ければなんですが」


いるま「はい。なんですか?」


ひさげ「この、お店で。燈(あかし)で働いて見る気はありませんか?」


いるま「えっ?」


ひさげ「もちろん、お給金はお出ししますし、福利厚生もちゃんと出来るようにします。最初は、アルバイトのような形になってしまうんですが、ゆくゆくは正社員のような形で……。考えて、頂けませんか?」


いるま「……こっ」


ひさげ「こ?」


いるま「こっちからお願いしたいくらいです!ありがとうございます!ぜひぜひ、よろしくお願いします!」


ひさげ「え、ええ。よろしくお願いします」



いるま、ひさげ、雑談アドリブ


フェードアウト



いるまナレ「こうして、私の就活は終わりを向かえた。そして、ちょっと変わった職場での毎日が幕を開けるのだった。これから、どんな日々が待っているのか、不安でもあるし、楽しみでもある。でも、出来るだけ長く、いられたらいいなぁ」



エンディング


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