デラシネの光

•3人用

•男性役2、女性役1

•20分くらい

•シリアス※叫びあり



登場人物

・カルマ(男性)

・パキラ(女性)

・アンスリウム(男性)

________________________


カルマナレ「俺は、デラシネを狩ることで生計を立てている。この半球状の綺麗な見た目の生きものを食べると、人間は、言葉にしなくても想いを伝え合うことができる。今、王都ではこいつが大流行りだ。おかげで食いっぱぐれなくて済む」


アンスリウム「いつもありがとうございます。デラシネはとても臆病な生物ですからね。これだけの量を仕留められるのは、カルマさんくらいですよ」


カルマ「ああ。…いや、こいつらは臆病なんじゃない。人に近寄らないだけだ」


アンスリウム「それが臆病ということでは?まぁ、それは置いておいて。はい。こちらが今回の報酬です」


カルマ「ああ。また来る」


アンスリウム「是非とも。もっと頻度を増やしてくれてもいいんですよ?」


カルマ「…そうだな」


アンスリウム「今後ともご贔屓に」



場面転換、カルマの自宅


カルマ「帰ったぞ」


パキラ「お帰りなさい。遅かったわね。またいつもの場所で?」


カルマ「あぁ。すまん。考え事をしていて遅くなった」


パキラ「そう。…ねぇ、デラシネ狩りなんてやめたら?優しいあなたには合ってないわ。もっと…ゴホッ、ゴホッ」


カルマ「大丈夫か?」


パキラ「えぇ、平気」


カルマ「寝ていてくれ、パキラ。夕飯なんて作らなくても、俺は自分で勝手に食べる」


パキラ「そうはいかないわ。あなたが私のために働いてくれているんですもの。何か返させてちょうだい」


カルマ「いらん気を使うな。もし倒れられでもしたら、どうしたらいいか分からん」


パキラ「そう。…じゃあ、お言葉に甘えて休ませてもらうわ。お夕飯は作ってあるから」


カルマ「あぁ」


カルマナレ「パキラは俺の兄の結婚相手だ。だが、兄が事故で死んで、未亡人になった。以来、この歪な共同生活が続いている。俺は別に、自分がどんな生活を送ろうと構わないが、パキラにはもっといい暮らしをさせてやりたいと思う。どうすべきか」



ノックの音


カルマ「誰だ、こんな夜更けに」


アンスリウム「どうも」


カルマ「……何の用だ」


アンスリウム「お分かりでしょう。例の件のお返事を聞きに来たんです」


カルマ「その事ならもう返事は伝えたはずだ。考えさせてもらうとな」


アンスリウム「ええ、ですが考えをまとめるのに些か時間が掛かりすぎているのではと思いまして。催促に来ました」


カルマ「何度来られようが、全てはパキラ次第だ」


アンスリウム「パキラさんは?」


カルマ「今は休んでる。直接話をしたいならまた日を改めてくれ」


アンスリウム「そうですか…。では、パキラさんにこれを。色良いお返事をお待ちしていますとお伝え下さい」


カルマ「分かった。もう帰ってくれ」


アンスリウム「では」


カルマ「ったく」


パキラ「どなた?」


カルマ「…別に」


パキラ「アンスリウムさんね。…それは?」


カルマ「何でもない」


パキラ「ごめんなさいね。いつもあなたに嫌な役回りを押し付けてしまって」


カルマ「あぁ…、嫌なやつに目をつけられたもんだ」


パキラ「そんな風に言わないで。あの人も、苦しい生活を味わってああいう風になってしまったのよ」


カルマ「生活が苦しいのはみんな一緒だ」


パキラ「そうね。…ねぇ、もし」


カルマ「もしも何もない。この話は終わりだ。俺ももう寝る」


パキラ「…ごめんなさい、コホッ」


カルマ「明日は早くなる。俺の分の飯は作らなくていい」


パキラ「またデラシネ狩り?」


カルマ「さぁな」


パキラ「そう。分かったわ。おやすみなさい」


カルマ「おやすみ」




カルマナレ「デラシネは、言葉にしなくても互いの考えていることが、他人の思っていることが分かる不思議な生物だ。だから、物騒なことを考えていると彼らは逃げていく。しかし彼らを狩るのは難しくない。真摯に頼み込めばいいんだ。生活に困っているから死んでくれないか、と。何故か彼らはそれで身を捧げてくれる。そして俺は、彼らの善意を糧に今日も多少の金を得る。これが俺の、いや。人間の業だ。自分を生きるために他者を犠牲にする生きものの罪だ。人間の生活は彼らと比べて余りにも恥ずかしい」


カルマ「もっとも、大半の人間はデラシネが考えを読めるなんておとぎ話程度にしか信じていない。あんたもそうだろう?こんなとこまで何しに来たんだ」


アンスリウム「いやいや、今日も精の出ることですね。…カルマさん。昨夜、パキラさんにお贈りした手紙は、ちゃんと彼女に渡してくれましたか?」


カルマ「さてな。どっちにしろ読まずに捨てたとは考えないのか」


アンスリウム「そんなまさか。彼女がそんな事するわけありませんよ。ずっと昔から知っている仲ですし」


カルマ「……」


アンスリウム「カルマさん。あなたが私のことをよく思っていないことは存じています。ですが、悪い話ではないと思いますよ。私にとっても彼女にとっても、あなたにとっても、ね」


カルマ「どういう意味だ?まさかあんたが裕福だからとか言うつもりじゃないだろうな」


アンスリウム「裕福だからですよ。彼女にもっといい暮らしをさせてあげたいとは思わないんですか?あなたも、今よりいい暮らしがしたいでしょう」


カルマ「…それは」


アンスリウム「……おや、デラシネ。初めて見ましたよ。生きているのは」


カルマ「…」


アンスリウム「カルマさんの言う通り、臆病な生物では無いのかもしれませんね」


カルマ「チッ…」


アンスリウム「ふぅむ。見れば見るほど興味深い。身体は一体何でできていて、どうやって動いているのやら。それに、考えを読み取るというのは…」


カルマ「おい。引っ込んでろ」


アンスリウム「…まさか。更に驚きましたよ。彼らは、あなたの命令を聞くのですか?」


カルマ「……」


アンスリウム「あなたは奴らに命令を下し、意思を操ることが出来るんですね!素晴らしい!いつもあなたが大量に仕留めてくるデラシネの正体の謎が解けました!カルマさん、カルマさんが仲間を連れてくるよう命じれば更に…」


カルマ「俺はあんたのそういう、他人を犠牲にすることを何とも思ってない所が気に食わない。あんたには良心も良心の呵責もない。酷薄な野郎だ。デラシネの意思を操るなんて出来もしないし考えたこともない。そもそもあいつらに意思はない。俺の願いをあいつらが気まぐれで聞き入れるに過ぎん」


アンスリウム「ですが、お願いを伝えることは出来るんでしょう?ならば」


カルマ「黙れ。俺もパキラも、あんたの言う通りにはならん。話は終わりだ」


アンスリウム「……手紙、捨てたんでしょう?」


カルマ「……何の話だ」


アンスリウム「私が昨夜、パキラさんに渡して下さいとお願いした手紙。捨てましたよね?」


カルマ「さぁな」


アンスリウム「そうですか。まぁ、いいでしょう。また近いうちにこちらから出向きます。あぁそれから、デラシネの買い取りは、いつも通り大歓迎ですよ」


カルマ「…どうも」



カルマの自宅


カルマ「ちっ……」


パキラ「お帰りなさ…ゴホッ…ゴホッ」


カルマ「パキラ?どうした。顔色が悪い。具合が悪いのか?医者を…」


パキラ「違うの…ケホッ。大丈夫。ただ……」


カルマ「…どうした?」


パキラ「ううん。なんでもないわ。それより、早かったのね」


カルマ「あぁ…すまん。今日の収穫はゼロだ」


パキラ「いいのよ。やっぱり、デラシネ狩りなんてしない方がよっぽどいいわ。いつもより穏やかな顔してるもの」


カルマ「……いつもはそんなに険しいか」


パキラ「ええ。とっても。ご飯も美味しそうに食べてくれないし」


カルマ「そうか」


パキラ「デラシネは賢くて優しい生きものだわ。きっとあなたの悩みや、葛藤に気付いているから、あなたの前に姿を現すのよ」


カルマ「そうかもな」


パキラ「デラシネに分かるんだもの。私にもちゃんと分かるのよ」


カルマ「…そうだな」


パキラ「ねぇ、カルマ。私は、こうしてあなたが何の憂いもなく暮らしていてくれることが何よりの望みだわ。だから、もうデラシネを狩って暮らすのはやめましょう」


カルマ「帰ってきていきなりこんな話か。金はどうするんだ。俺には、他に出来るような仕事なんて」


パキラ「仕事が見つからなくてもいいわ。いざとなれば私がなんとかします」


カルマ「なんとか?どうやって」


パキラ「あなたは何も心配しなくて大丈夫。今まで、こんなに私のために頑張ってくれたんですもの。今度は私の番」


カルマ「パキラ…まさか」


パキラ「私、再婚します。あの人と」


カルマ「やめろ、俺のためにそんなことするな!俺はパキラが」


パキラ「もう決めたことよ。あなたがなんと言おうと、私はあなたの幸せのために生きていたい。重荷になるのは嫌」


カルマ「俺は、パキラを重荷だなんて思ったことはない!それに兄さんが」


パキラ「あの人の話はやめて」


カルマ「……すまん」


パキラ「私は今でもあの人を愛しています。あの人の弟であるあなたのことも。だからこそ、私は」


カルマ「……」


パキラ「ごめんなさい。さぁ、夕飯にしましょう。今日は豆とほうれん草のシチューよ」


カルマ「……あぁ」




カルマ「……」


パキラ「……カルマ」


カルマ「……」


パキラ「もう寝たかしら?」


カルマ「……」


パキラ「……ごめんなさい。あなたが私のことをしっかり考えてくれていることも、思いやってくれているのも、ちゃんと分かってるわ。でも、それは私も同じ。だから、許してね」



ドアの音


カルマ「……パキラ?」



月夜の森を歩くカルマ


カルマ「一体何をしにこんなところまで。…?あれは、アンスリウム!?」


アンスリウム「来てくれたんですね。パキラ」


パキラ「…ええ」


カルマ「おい!何のつもりだ!」


パキラ「カルマ?!」


アンスリウム「何のつもりもなにも。ただ人目を忍んで会いたかっただけですよ。2人きりで」


カルマ「おい、パキラ!帰るぞ!」


アンスリウム「そうは行きません」



パキラの首にナイフをあてがうアンスリウム


カルマ「っ!おまえ」


パキラ「…アンスリウム、お願い離して。こんな事をしなくてもあなたの話はちゃんと聞くわ」


アンスリウム「そうでしょうとも。ですがあなたの義弟さんがそうはさせてくれないと思ったので」


アンスリウム「…お願い、カルマ。何もしないで」


カルマ「……っ!」


アンスリウム「パキラ。あなたを信じますからね」



ナイフを収めるアンスリウム


アンスリウム「パキラさん。聞いてくれますか?」


パキラ「何を…?」


アンスリウム「パキラさん…!あなたが好きだ。ずっとこうして、あなたに会って、あなただけに直接告げたかった。脅迫紛いの手紙を差し上げたことや乱暴な真似をしたことは謝ります!ですが私は本気なんです。どんな手を使ってでも想いを遂げたかった!…最初は、あなたが幸せでいてくれればそれだけでいいと、どんな形でもいいと思った、でも!やはり私のそばに居てくれなければ嫌だ!パキラ!私を見て下さい!私だけを!不満があれば直します!あなたを幸せにできるならどんなことだって!私だけを見てください!私はあなたを…」



カルマがアンスリウムに殴り掛かる


カルマ「うおぉっ!!」


パキラ「カルマ!!」


アンスリウム「…くっ!!」



揉み合うカルマとアンスリウム


アンスリウム「離せ…っ!!このっ!お前はどこまで恥知らずなんだ!!」


カルマ「どっちがだ!!お前のような奴に、俺の家族は渡さない!!」


パキラ「やめてっ…!2人とも…ゴホッ…!やめ……ゴホッ!ゴホッ!ゴホゲホゴホッ…!」


カルマ、アンスリウム「「パキラ!!」」


カルマ「大丈夫か?!」


アンスリウム「今すぐ医者を呼びます!パキラ!しっかりして下さい!」


カルマ「お前は黙ってろ!!」


アンスリウム「お前は…!!!」



突然、たくさんのデラシネが森から出てきて3人を囲み、キラキラと光り始める。

驚くカルマとアンスリウム。パキラは咳き込んだまま


カルマ「…な……」


アンスリウム「なんですか……?これは…いったい」


パキラ「コホッ…コホッ…!やめて、…ふたりとも…コホッコホッ」


カルマ「…なん、だ?これは、なんなんだ。誰かの…気持ち?」


アンスリウム「怒りと…悲しみ……。まさか、これはカルマとパキラの……?」


パキラ「…伝わってくる。ゴホッ…。2人の思っていること…コホッ」


カルマ「……アンスリウム、あんたは」


アンスリウム「あぁ…、ああ…!やめて下さい…!やめろ!!聞きたくない!知りたくない…っ!!こんなの!!」


パキラ「…アンスリウム…コホッ…」


アンスリウム「嘘だっ…!嘘だ嘘だ嘘だこんなの!おとぎ話の延長だ!!信じない!私は信じない…!こんなの!!気持ちを感じられるなんて、想いを感じ取れるなんて、そんなことがあるもんか!!……パキラ…っ!」


パキラ「…っ!!」


カルマ「大馬鹿野郎!!」


アンスリウム「ぐっ…!!!」


パキラ「カルマっ!!やめなさい!!」


カルマ「……」


アンスリウム「デラシネに意思なんて無いと言ったのはお前だ!!やつらは何のために出てきたんだ!!何のために私にこんな仕打ちを!!デラシネなんかにっ!!」


パキラ「アンスリウム!……ゴホッ、ゴホッ。……あなたの想いも伝わってきているわ。あなたが、本気で私に恋をしてくれているって、…それも嘘なの?」


アンスリウム「ぐっ…うぅうーーー…!!!嘘なもんか!!嘘なもんかぁ…っ!!私は、私は、あなたが好きだ…っ。どうしようもないくらい……!」


パキラ「アンスリウム……」


アンスリウム「本当は気付いていたんだ……。デラシネなんていなくても、心なんて分からなくても、あなたがあいつをどれだけ愛しているかなんて……、分かっていたんだ!………なんで、なんでですか……あなたは、なんでまだ、こんなにもあいつの事を愛しているのですか?まだ、…なんで?なんで、私じゃいけないんですか?私は、いつまで経ってもあいつには勝てないんですか?あなたの夫には、私は…!私は!」


カルマ「…アンスリウム」


アンスリウム「何をやっても勝てなかった!いつも、あいつはみんなに持て囃されて、人気者で、優しくて、大きくて、……なのに嫌いになれなくて!!私より賢くて、私より強くて、私より…、ずっと……。私の、私の憧れだ。今も……」


パキラ「……」


アンスリウム「なぜか…なんて……分かっているんです…!理由なんてないのも分かっているんです…!私は……なんで……!あなたを好きになる権利すらない……!」


パキラ「…ねぇ、」


アンスリウム「やめて下さい。今はあなたが何を思っているか、全部分かっているんです。私を、憐れまないでください。2人ともです」


カルマ「……」


アンスリウム「……もう、やめます。今日のようなことは。…いえ、今までのようなことも。……もう、行きます。追わないで下さいよ。一人にしてください」


カルマ「…嫌な気分だ。嘘がないのも分かっちまう」


アンスリウム「諦めませんからね…!パキラ、私はあなたを諦めませんよ」


カルマ「うるさい。さっさと消えろ。一人になりたいんだろ」


アンスリウム「ムカつきますね」


カルマ「伝わってるよ」


アンスリウム「……ふん」



去っていくアンスリウム


カルマ「…パキラ」


アンスリウム「……ごめんなさい。カルマ。私のせいで」


カルマ「いや、俺の方こそ、今まで余計なことをしていた。すまない」


アンスリウム「そうね。…でも、私のためを思ってしてくれる余計なことは、とっても嬉しいわ。伝わってる?」


カルマ「…ああ」


アンスリウム「…きっとこの子たちは、私たちを仲直りさせたくて出てきてくれたのね。やっぱり、とても賢くて、とても優しい」


カルマ「ああ」


アンスリウム「この子たちを食べたりしなくたって、想いを伝え合えるのね私たちは」


カルマ「そうだな。今まで俺は……」


アンスリウム「……もう、済んだことよ」


カルマ「いや、俺はちゃんと、自分の業と向き合って生きていくよ」


アンスリウム「…そう」


カルマ「……さあ、帰ろう」


アンスリウム「そうね。帰りましょう」


カルマ「デラシネの光、か。……ありがとう」



デラシネの光 -fin-

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