雨通り2
・朗読用
・約3〜5分
本文
雨が降り続く通りがあった。
今日はその中の、ある待ち人のお話。
傘をさしながら、何かを待っている人がいた。
コートの裾を濡らして、腕時計をちらちらと気にしている。
その待ち人は、いつもこの場所で誰かを、あるいは何かを待っていたのだった。
思い切って、声を掛ける。
「どなたを待っているんですか?」
「ああ、いえ。猫をね」
確かにその人は、路地の前に立って、傘をさしていたのだった。
「飼ってらっしゃるんですか?」
「いえいえ、野良なんですが、よく餌をあげていた物でして。近頃、見かけなくなってしまいましたがね」
その待ち人は、ふと、遠くに思いを馳せるようにして、目を細めた。
ふと、鳴き声が聞こえた気がして足元を見ると、そこにはいつの間にか、黒い猫が座っていた。
「おお。そういう事だったのか」
待ち人は、傘を路地の壁に立て掛ける。
そこに、黒猫と、仔猫が入った。
その後しばらく、待ち人は猫達に餌をやっていたが、10分ほどで、猫はどこかに行ってしまった。
雨は、上がっていた。
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