夢まきくじら

・90秒台本

・1人用



本文


星降る夜空を泳ぐクジラと

話したことがある


夜明けの色の尾ビレをはためかせて

背中から優しい夢を吹き上げながら

雲間を泳ぐその姿に

言葉を忘れていると


クジラが話し掛けてきたのだ


「いい夜だね」


私は答えた


「いい夜だね」


それからしばらく

クジラは話した


遠い遠い星から来たこと

片想いをしているカワウソがいること

太陽が昇っている間は

深い海の底で眠っていること


私は耳を傾けた


やがて

朝の匂いが近づいてくる頃

クジラは帰っていった


打ち寄せる波際の

ずっとずっと遠くへ


残夜のしぶきを蹴立てて


ゆっくりと


ゆっくりと

猫猫権左衛門の台本

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